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最高裁判所第一小法廷 昭和61年(あ)1226号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人岡邦俊、同碓井清、同鎮西俊一、同舟木友比古の上告趣意のうち、違憲をいう点の所論は、自己消費を目的とする酒類製造は、販売を目的とする酒類製造とは異なり、これを放任しても酒税収入が減少する虞はないから、酒税法七条一項、五四条一項は販売を目的とする酒類製造のみを処罰の対象とするものと解すべきであり、自己消費を目的とする酒類製造を酒税法の右各規定により処罰するのは、法益侵害の危険のない行為を処罰し、個人の酒造りの自由を合理的な理由がなく制限するものであるから、憲法三一条、一三条に違反するというのである。

しかし、酒税法の右各規定は、自己消費を目的とする酒類製造であっても、これを放任するときは酒税収入の減少など酒税の徴収確保に支障を生じる事態が予想されるところから、国の重要な財政収入である酒税の徴収を確保するため、製造目的のいかんを問わず、酒類製造を一律に免許の対象とした上、免許を受けないで酒類を製造した者を処罰することとしたものであり(昭和二八年(あ)第三七二一号同三〇年七月二九日第二小法廷判決・刑集九巻九号一九七二頁参照)、これにより自己消費目的の酒類製造の自由が制約されるとしても、そのような規制が立法府の裁量権を逸脱し、著しく不合理であることが明白であるとはいえず、憲法三一条、一三条に違反するものでないことは、当裁判所の判例(昭和五五年(行ツ)第一五号同六〇年三月二七日大法廷判決・民集三九巻二号二四七頁。なお、昭和三四年(あ)第一五一六号同三五年二月一一日第一小法廷判決・裁判集刑事一三二号二一九頁参照)の趣旨に徴し明らかであるから、論旨は理由がない。

同上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の各判例は本件と事案を異にし適切ではなく、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

よって、同法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤哲郎 裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 大堀誠一)

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